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知的財産編
特許保証条項があれば売主に全額請求できるのか
事業者間の売買契約では、売主が、売買対象物が第三者の特許権等を侵害しないことを保証する条項や、知的財産権をめぐる紛争が生じた場合には、売主が自己の費用と責任で解決し、買主に迷惑をかけない旨の条項が設けられることがあります。
買主としては、このような条項があれば、第三者から特許侵害を主張され、ライセンス料や和解金を支払った場合でも、当然にその全額を売主に請求できると考えがちです。しかし、裁判所が契約文言どおりの責任をそのまま認めるとは限りません。
特許保証については、単に「非侵害を保証する」「売主が解決する」と定めるだけでなく、各当事者の行為義務や責任範囲について具体的に定めるとともに、紛争発生後も、適切な手続を経ていると裁判所に評価してもらえるかを意識して対応する必要があります。
知財高判平成27年12月24日の事案では、買主が、売主から購入した電子部品について第三者から特許侵害を主張され、ライセンス料を支払った後、売主にその負担を求めました。
しかし、裁判所は特許侵害自体を否定した上で、「売主が自己の費用と責任で解決する」「買主に一切の迷惑をかけない」とする条項は、売主の包括的・抽象的な義務を定めたものにすぎず、具体的な義務の内容は個別事情に応じて決まると判断しました。そして、売主には一定の情報・資料を提供する義務があったとしつつも、非侵害であるにもかかわらずライセンス料を支払った買主にも落ち度があるとして、70%の過失相殺を行い、賠償を支払額の30%に限定しました。
他方、知財高判令和5年11月8日の事案では、「抵触した場合には売主の負担と責任で処理解決する」との条項について、結果的に特許侵害がなかったと判断された場合でも、それ自体で売主には一切の義務・責任がないとするのではなく、権利者から買主への特許侵害の主張につき、売主が買主に情報・資料の提供等により十分に協力しなかった場合は、売主に協力義務違反が成立し得るとしています(結論としては、十分な協力があったとして義務違反を否定)。裁判所が、売主に有利にも不利にも、文言だけでは明確でない義務を認定する可能性を示すものです。
買主側では、近時の公取委等によるガイドラインの内容も踏まえつつ、単に「非侵害を保証する」「売主が解決する」と定めるだけでなく、第三者から警告を受けた場合の通知、調査協力、資料提供、交渉方針、弁護士の選任、和解への同意、費用負担の範囲など、売主と買主の役割分担を具体的に定めることが重要です。
また、紛争発生時に、売主への通知や協議を尽くさないまま支払いや和解を行うと、後の求償が制限される可能性があります。特許保証条項は重要ですが、それだけで全てのリスクを売主に移転できるわけではない点に注意が必要です。
Author
執筆弁護士