2026.10.09

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人事労務編

能力不足社員と解雇の手順

はじめに


「中途で入社したのに、期待した水準の仕事ができていない」、「数年にわたり何度も注意してきたけれど、一向に改善しない」。このような能力不足社員への対応に苦労されていませんか。能力不足社員への対応として、PIP(Performance Improvement Plan:業績改善計画)を導入する企業が、外資系企業のみならず、日系企業でも増えているように思われます。

今回の勘所


PIPは、業務遂行上の問題点を具体化し、合理的な改善目標と改善期間を設定した上で、会社による指導・支援や定期的なフィードバックを通じて、本人の改善を促すための手順です。改善に至らない場合には、その経過を踏まえ、配置転換、役職変更、解雇などの対応を検討することになります。最終的に解雇を選択するに当たっても、このPIPの手順を経ることで、能力不足社員に実質的な改善の機会を与えたことが、労働契約法16条にいう「社会通念上の相当性」を肯定する方向の事情となり得ます。

近時の裁判例


華為技術日本事件(東京地判令和6年3月18日(Westlaw Japan文献番号2024WLJPCA03188001))では、PIPを実施したこと自体は相当とされながらも、PIPにおける面談やフィードバックの状況が明らかではなく、会社には、退職勧奨に進む前に、求める業務のあり方について、より踏み込んだ指導・教育を行う余地があったなどとして、能力不足を理由とする解雇が無効とされました。

実務上の対策


PIPを実施する場合には、次の4段階で整理することが必要です。

1.「能力不足」を具体化する 

まず、「能力が低い」といった抽象的な評価ではなく、どの業務で、どのような問題が生じているのかを具体的に特定します。あわせて、同じ職位・職務の社員に通常求めている水準と比較し、本人に求める業務水準が合理的なものかも確認しておく必要があります。

2.改善目標と改善期間を明確にする

次に、「主体的に行動する」といった抽象的な目標ではなく、達成状況を客観的・定量的に確認できる目標を設定します。例えば、「毎週金曜日までに担当案件の進捗を報告し、納期遅延のおそれがある案件について上司に報告する」といった形です。
なお、PIP対象者だけに通常より著しく高い水準を要求することは避けるべきです。また、改善期間についても、改善事項の内容に応じて現実的な期間を設定する必要があります。

3.会社側の支援と途中経過を記録する

PIPでは、上司との定期面談、具体的な業務指導、OJT、研修等、会社がどのような支援を行うのかもあらかじめ整理しておくことが重要です。そして、問題点だけではなく、改善した点も含めて定期的にフィードバックし、その内容を記録しておきます。PIP開始時と終了時だけでなく、途中の指導・改善経過を残しておくことが重要です。

4.PIP終了時に対応を改めて検討する

PIP終了時には、単に「目標を達成したか、しなかったか」だけで判断すべきではありません。改善の程度、今後の改善可能性、これまで会社が行った指導・支援の内容を踏まえ、必要に応じてPIPの延長、担当業務の変更、配置転換、役職変更等も検討します。その上で、なお能力不足が重大で、改善可能性や他の配置の可能性も乏しい場合に、退職勧奨や普通解雇を含む次の対応を検討することになります。

まとめ


PIPは、能力不足という主観的になりやすい評価を、具体的な事実、合理的な改善目標、会社の指導・支援、本人の改善状況という客観的なプロセスに置き換える手順です。この手順により、能力不足社員に改善を促し、改善が困難であれば契約解消も選択肢として視野に入れて検討をするということになります。