企業の人事・労働法務は、労働法規の遵守にとどまりません。本対談では、労働法務の最前線で豊富な経験を有するパートナー弁護士・安藤源太と、国際案件の労働領域を担うパートナー弁護士・奥田洋平が、
人事・労務に関わる多様なステークホルダーへの視点、M&A・危機管理・訴訟を横断する総合的アプローチ、そしてクライアントの社風やビジョンに即した実務的な伴走のあり方について語ります。
人事・労働法務に求められる「幅広い視野」
奥田:安藤先生は企業側労働法務を一貫して取り扱ってこられましたが、企業法務の中で人事・労務をどう位置づけていますか。
安藤:企業が従業員を雇用して事業活動をする以上、従業員と会社組織をめぐる法律問題は必然的に発生します。しかも、これらは単なる社内トラブルにとどまらず、株主や取引先の信頼を揺るがし、企業の事業活動に直接影響することもあります。この分野を扱う弁護士としては、こうした問題を早期に適切に収束させ、また未然に防ぐための対策を講じることで、企業活動への影響を最小限に抑える。その過程に深く関与できる点に、大きな価値と魅力を感じています。
奥田:企業からすれば、相手方となる従業員・元従業員だけでなく、企業のステークホルダーへの影響も踏まえて検討する必要がある、ということですね。
安藤:その通りです。企業には、従業員だけでなく、株主、取引先、労働行政、労働組合など多様なステークホルダーが存在します。人事・労務の問題に取り組む際には、それらの視点を踏まえつつ、企業の事業活動の効率を最大化する最適解は何か――これを経営者の目線で考える姿勢が欠かせません。
奥田:人事・労務分野は、実務面も含めて法改正が相次いでいますね。
安藤:確かに、近時は新法の制定や法改正が多い分野です。改正内容を逐次フォローし、就業規則類や運用に反映することは重要です。ただし、単に形式的に追随すれば良いわけではなく、社会経済情勢や諸外国の労働法制等の動向も踏まえ、使用者・労働者双方の視点から、最も望ましい形で企業運用に落とし込む必要があります。その意味で、この分野を扱う弁護士には、幅広い視野が求められます。


クライアントのニーズに応えるための「総合力」と「伴走力」
奥田:労働法には労働時間規制のような技術的な側面もあり、企業側の人事・労働法務においては労働法だけが分かっていればよい、というような誤解もありそうですが、実際には、他の領域を含めた総合的な対応力が必要になる分野だと考えています。
安藤:そのとおりです。もちろん、労働法の知識は不可欠ですが、それだけでは足りません。M&Aでは、労務の視点だけでなく、会社法務・税務も踏まえて人的ストラクチャーを構築する必要があります。また、労働問題は争訟になる可能性が高いため、労働審判・民事保全・民事訴訟等の手続法にも精通している必要があります。労働組合との団体交渉では、交渉力が問われますし、危機管理・不祥事対応では、事実調査や証拠分析力が重要になります。
奥田:企業側の労働法務では、紛争対応だけでなく、賃金体系を含む人事制度設計や、統合後の制度調整などの相談も多いですよね。
安藤:そうですね。具体的な制度設計や統合においては、労働法上の最低ラインを守りつつ、クライアントの社風、労使慣行、労使関係についての目指すべきビジョンなどを丁寧に伺います。そのうえで、クライアントのカルチャーに沿った“オーダーメイドの制度設計”を提案するよう心掛けています。
奥田:クライアントのニーズに寄り添う姿勢は、制度設計だけでなく、日常の人事労務対応や紛争・危機管理の場面でも求められますね。
安藤:労働法は抽象度の高い規範も多く、クリアカットな答えが出しにくい分野です。そのため、クライアント側は、リスク回避を優先し、従業員からのクレーム、争訟、労基署への申告などを避けるために、どうしても保守的な対応を行いがちです。しかし、この分野を扱う弁護士としては、クライアントの真意をうかがいながら、日々の現場で起きている事象を丁寧に把握し、ただ安全な答えに逃げるのではなく、より良い方向に進む実務的な解決策を提案することが重要だと考えています。

日本と海外をまたぐ課題解決
安藤:当事務所では、日本国内のクライアントから人事・労務に関する相談を日常的に受けていますが、国際的な案件をご依頼いただくことも多くあります。
奥田:当事務所のクライアントは、上場会社を含め、国際展開をしている企業が大半です。そのため、海外グループ会社の人事制度や労務管理について、子会社管理の観点から検討が必要となる場面が頻繁にあります。
安藤:例えば、海外グループ会社に出向する場合など、日本と海外の法制度にまたがった検討が必要となることも少なくありません。
奥田:実務上でも、インドネシアでは人事労務に外国人が関与することが規制されており、日本本社として現地法人の人事労務をいかに管理するかが課題になることがあります。また、日本企業が自社従業員を、海外グループ会社の取締役・監査役として出向させるケースも多く、この場合、日本国内では労働法、海外では会社法と、それぞれ別の観点から検討する必要があります。
安藤:日本国内の人事・労務に限らず、海外グループ会社を含めた問題も一貫して対応できる点は、当事務所の大きな強みだと感じます。
奥田:当事務所では、長年にわたって築いてきたグローバル・ネットワークを活用し、海外の一流法律事務所と連携しながら、各国の制度や実務の違いを丁寧に踏まえた助言を行っています。国際労務は、国や地域ごとに規制・文化・実務慣行が大きく異なるため、机上論ではなく「その国で本当に動く対応」を提示できることが重要です。これからも、国内外の法制の変化を正確に捉えつつ、クライアントの現地オペレーションに直結する実務的な支援を提供していきたいと考えています。

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